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生徒会室の窓際の椅子に深く腰をかけ、天井を仰ぎ見る。
『俺、何で里田を呼び出しちまったんだろう』
昼食を終えた生徒で、徐々に校舎がざわつきだす。
なんだか、すごく落ち着かない。
ドアを少し開けて、里田が覗き込んだ。
春の香りが生徒会室に流れ込む。
ああ、もう直ぐ卒業だな。
「そこに座ってください」
里田がすぐ前の椅子に、ちょこんと座る。
なんだよ、その絵に描いたような嫌そうな顔。
しかも、下向いてるし。
ああ、……ふ、吹き出しそう。
我慢我慢。
見ているだけで。面白い奴だな。
「里田さん」
「はい」
あ、顔上げた。
その前髪をみると、左胸がズクズク締め付けられる。
それ、誰にやられたの? 大丈夫?
「その前髪、凄く斬新なんだけれど、わざとですか?」
「わ、わざとじゃないよ。
朝、風紀検査って気付いて、慌てて切ってさぁー。
今日帰ってから切り直すよ」
ああ、良かった、やられたんじゃなかったんだ。
それにしても、自分で切ったとは言え、どうやったら、そんなズタズタな前髪にできんだよ?
ククッ、ありえねぇーほど、ド下手。
「今日、月曜日だから美容室休みだけれど、また自分で切るつもりですか?」
里田は首がチギレそうなくらい必死に、うなづいた。
おもちゃみたい、やっぱり面白い奴。
そういや、電車の中で、口のデカイあの男と話す里田、見てるだけで面白いよな。
「里田さん、今日自分で切り直したら…」
「はい、切り直します」
ド下手さんに出来るわけねぇーだろー。
俺がさ……
ねぇ、チナ。
今から、俺が助けてやるよ。
「いや、お前が切り直したら、前髪、無くなっちまうよ」
俺は、そっと机に眼鏡を置いた。
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