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「涼、女の子連れ込んで、何してるの?」 突然の嵯峨山の声で我に返った。 生徒会室のドアのそばの嵯峨山は、すげぇ驚いた顔をしてる。 俺は、慌てて眼鏡をかけた。 「里田さん、もういいよ」 「は、はい。ありがとうございました」 俺の横を通り抜ける里田に、 「今日の放課後付き合って」 って小さく耳打ちした。 俺、一体何したいんだ……。 「涼、今何してたの?」 「たぶん、里田の前髪を揃えてた」 目の前に、俺のハサミと切れた髪があるから。 「………カエルの子はカエルね。うまかったじゃん」 「家に引きこもってた時、家業させられてたからな」 あの時の俺には拷問だよな、家業が美容室なんて。 『涼、お前がさ、その子の前髪、 切り直してあげたらいいと、父さんは思うな。 それが綺麗に出来なくってもさ。 大切だと思う人の傷があれば、 治すことはなかなか出来ないと思うけれど、 お前がさ、ベッタリと、 その部分を覆ってあげると良いんじゃないかな』 親父の言葉と、それを聞いても一歩も動けなかったダメな俺を思い出した。 ごめんね、チナ。 「さっき、伊達眼鏡、外してた?」 「たぶん、外してた」 さっき眼鏡をかけたから。 「じゃあ、どうして、また、かけたのよ」 「違うよ」 「何が違うのよ?」 「どうして外してたのか、わかんねぇ」 廊下が静かになる。 もう直ぐ昼休みが終わる。 「そっか。でも、あの子が涼にキッカケをあげたんだね」 嵯峨山がチナみたいに笑った。 チナが、笑った。 「あの子が、涼の次の世界に続く扉を開けてくれたんだね」 「次の世界?里田が?」 嵯峨山はコクンとうなづくと、それ以上何も言わずに部屋を出て行った。
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