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放課後、里田を定休日の親父の美容室に連れて行った。
俺は里田の髪を洗う。
タオルで顔がみえない里田に、何話してんのか全くわかんねぇほど緊張する。
だって、俺、眼鏡を外してるから。
「お前もっとショートの方が似合うぞ」
いつも電車で里田を見て、そう思ってたんだ。
タオルで濡れた髪を包み、椅子をたててあげる。
里田の顔が見えると、尚更、緊張する。
「では、お客様、あちらへどうぞ」
もう、そう言うのが精一杯。
お前の目に俺はどう映ってる?
鏡には、カットチェアーに座る里田の横に、眼鏡のない俺がいる。
意外に、変な感じでは無い。
むしろ、自然。
あ、言い過ぎた。
「前髪整えてもらったお礼なのに、私がセットして貰うって。してもらってばっかりで、申し訳ないね」
もう、お礼は貰っている。
今、眼鏡が外せているんだから。
「ヘアセットの練習台になってくれてるんだから、気にするな。まぁ、気に入った仕上がりになったら、ご褒美宜しく」
ドライヤーを構え、手櫛で髪を乾かす。
フニャフニャの里田の髪は気持ちいい。
里田の髪を触っていると、口の大きな里田の彼氏の顔が浮かんだ。
奴の知らない里田を作りたい。
「ナナメってさぁ、朝電車で一緒にいる奴と付き合ってるのか?」
まずは呼び名から。
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