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西裏駅で俺は列車を待っていた。はぁ、寒い。寒いのは俺が超氷河期世代というわけではなさそうだ。もうすぐバレンタインだが、関係ない。
チビだし、もらえるはずがない。
一流ではないが、五流でもない大学に入ったものの運悪く、小泉内閣の【痛みのある構造改革】のときに就職活動にぶち当たった。夢はエントリーシートで削られ、10社以上も面接で落ちて、漸く印刷会社に就職した。梨田印刷という、頭の軽そうな名前だったので嫌な予感がしたが、適中した。
俺は営業部に配属されたが、社員はゴロツキばかり。
梨田本人は癌を患い、余命いくばくもなかった。 梨田は専務の朝倉に全てを任せていた。
今日も研修で営業同行したのだが、萩原っちゅう上司から「君は文学部だったよね?文学部の奴ってろくなのがいないんだよね。まぁ、期待してないから」と、いきなり学歴差別をされた。
列車が人身事故で遅れているようだった。
「あれ、安田君じゃないか?」
メタボリックな男が近づいてきた。
「あぁ、山崎さん」
彼は営業部の主任だ。彼は、いつも朝倉から頭を叩かれている。AKBの大ファンだ。
「君は確か文学部だったよな?」
「ええ、そうですよ。専攻は横溝正史です」
「あぁ、金田一ね。え!?横溝ゼミなんてあるんだ!」 本当はそんなゼミなんてない。夏目漱石なんて今や、教科書からも抹消されるほどの存在だ。
彼が食堂で【金田一少年の事件簿】を、読んでるの見かけた。山崎と仲良くなれるとワクワクしていた。
「あ~、残念だけどジイサンの方には興味がないんだよね?」
「?あぁ、確かに文庫って字が小さいし、テレビで見た方が分かりやすいですよね?」
「うん、ところでさぁ、俺のボールペン知らないかな?」?俺の目がビカビカ光る!
妄想モードON!確か、山崎は営業回りを終えて戻ったときトイレに入った。
「ペンはトイレに落ちている!」
山崎が腰を抜かして倒れていた。俺の回りに野次馬が出来ていた。
「イリュージョンかのう?」「いや、光学迷彩だ」
わけが分からなかった。
「あのぅ、何かあったんですか?」
「ななななな、何かじゃないよ!君ィ、何消えてんだよ!?」
山崎が鼻の穴を膨らませて言った。
「キレてないっすよ!俺、もう23っすよ?」
「とぼけんなよ!君、透明人間!?」
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