第2章

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ふと水槽の2匹の金魚を見た。オレはうまそうだと思った。 ためしに一匹を手ですくい上げた。そのまま―――生きたまま食った。 噛むのは抵抗があった。それで丸呑みにした。それでも口の中は生臭さでいっぱいになる。 だが―――変化があった。これまでにない変化が。  あれほど何を食っても満たされなかった空腹感が、ほんの少しだがやわらいだのだ。 魚だ。オレは思った。魚を食えばいいのか。オレは近所のスーパーに行って サバの煮付けの缶詰を買って、さっそくアパートに帰って食ってみた。  だが変化無し・・・だめだ。やはり空腹感は満たされない。オレはまた水槽を見た。金魚はあと一匹いる。 その金魚は前に喰ったヤツより一回り大きい。その金魚を手ですくった。 手の中で暴れる金魚は、まさに生きている。命が手を伝わって、そこに確かにあった。  オレはその最後の金魚を口に放りこんだ。さすがにでかいだけあって、 一口では飲み込めない。仕方が無い。オレは腹が減ってるんだ。飢えているといってもいい。  オレは金魚を噛み砕いた。口の中で臓物と骨とが血に混じりあって ものすごい生臭さを飛散させた。でも、飢えのほうが勝った。オレは金魚を飲み込む。するとどうだ、 空腹感がやわらぐじゃないか・・・・・。  オレはようやく理解した。飢餓をやわらげるには、生きたものを生きたまま喰えばいいのだ。 そうすれば、飢えることはないのだ。  だが、何を喰う?何を生きたまま喰う?毎日金魚ばかり喰うわけにもいかない。 腹いっぱい喰うとしたら、何十匹喰えばいい?まず、オレにそんなにたくさんの金魚を買う金も無い。 もっと効率良く、金もかからない方法はないか? そうだ、釣りだ。魚を釣ってそのまま喰えばいい。オレはさっそく釣具店に行った。 一番安い釣竿とエサのゴカイを買った。近くのため池に行く。釣り針にゴカイを突き刺し、糸を垂らした。 ゴカイは生きたままだ。このミミズに似た生き物を見ていると、無償に食欲が湧く。 オレはふと思った。こいつらも生きている。グロテスクな姿をしているが、喰えないことはないだろう。  オレは1匹手に取ると口に放りこんだ。するとそいつはオレの舌に噛み付いてきた。 その痛みと食欲で、オレはゴカイを噛み砕いた。泥を喰うと、きっとこんな味がするんじゃないかと いうような味がした。口の中いっぱいに生臭さとジャリジャリという食感が広がる。
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