第4章

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野良犬だって、いざ喰おうとしたら当然暴れるだろう。そしたらこっちも大怪我するかもしれない。 小型犬で捕まえやすい奴・・・・・オレは血のめぐってない頭で必死に考えた。  いた―――。 オレの住んでいるこのアパート。オレの2部屋隣に、30代のOLとおぼしき女性が住んでいた。 たしか彼女はミニチュアダックスフンドを飼っているはずだ。 彼女が出勤する時、玄関口で寂しそうに鳴く犬の声を聞いたことがある。 ドッグフードとかあらかじめ置いていくのだろう。  これはチャンスだ。ミニチュアダックスフンドだったら、そんなに力もないし、何とか喰えるだろう。 オレは作戦を決行した。  彼女はいつもの時刻―――朝7時半頃、玄関の扉を開ける音がする。 オレは自室の玄関越しに、耳をそば立てていた。これもいつものように、 悲しげなミニチュアダックスフンドの、たとえ一時でもご主人様との別れを悲しむ鳴き声が聞こえる。 「お留守番頼むわよ。ポピー」彼女はいつものことだと慣れているのか、 その声に飼い犬のような悲嘆さは感じられなかった。 彼女は玄関の鍵をかけると、ハイヒールの靴音を鳴らしながら出て行った。  しばらくの時間を置いて、オレは彼女の部屋のベランダに向かった。柵は難なく越えられた。 ベランダに面しいている大きな窓はサッシだが、オレの部屋のものと同じなので、 どのへんにサムターンがあるのか、どうすれば空くかはわかっていた。 アルミサッシの鍵側の部分にガムテープを貼る。タオルで包んだ金槌を、その狙った部分に 叩き付けた。2度目でガラスは割れた。すると異変に気づいたのか、ポピーが駆け寄ってきた。 最初はご主人様と思ったのか、のどで鳴くような甘ったれた鳴き声を出していたが、 ガラス越しに見えるオレに気づくと、猛犬のように吠え出した。  オレは身を縮め、あたりの様子を見た。このアパートは3方向を、 安物のコンクリートブロックで囲まれている。1階部分はほとんど外部から見えない。 それに他の住人が起きてくる気配も無い。今のうちだ。オレは仕事を急いだ。  ガラスには細い鉄線が入っている。これも用意したペンチで切断することにする。 空いたところから手を突っ込む。サムターンに手が届いた。一気に回す。 その瞬間だった。ポピーがオレの手を噛んだのだ。軍手越しだったが、けっこう痛かった。
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