序章

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Memory あおぎ見て月を 思い出をたどり 歩いてゆけば 出逢えるわ 幸せの姿に 新しい命に―――              (ミュージカル「CATS」より) ここが、私のステージ。 誰に気兼ねすることもなく、思い切り、声を出すことが出来る。 発声練習も兼ねて、喉ならしに短い曲を選ぶ。 何回か通した後、今日の曲を何にしようか、頭の中で検索する。 よし、これにしよう。 ミュージックプレーヤーから流れる、美しい前奏に気分をのせた後、一瞬の音の空白に息を整える。 オーケストラの奏でる旋律に、どんどん自分が引きだされていく感覚。 もっと。 もっと、歌いたい。 本当は、自分の声がどれくらい響いているのか確かめたいけれど、こんな狭い空間では、声はこもってしまう。 私の歌は、人に聞かれてはいけないから。 そのために選んだここは、病院の使われなくなった建物の中。
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