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「猫語の意味?」
「ほら、やっぱり分かってないで言ってたんじゃん」
「え、ごめん……、なんとなく伝わるかなぁと思って」
「なんとなく、で相手に伝わるんだったら誰もコミュニケーションで苦労しないよ」
猫に説教をされている。なんとも妙な気分だ。
「じゃあ、さっきのニャーンは煽りに聞こえてたの?」
「煽りっていうか……」
ミーは急に口ごもる。私は余計気になって、ミーに顔を近づけた。
「ん?」
「……あーもう!」
突然ミーが右前足を私に向ける。シャッと風を切るような音がして、私の鼻先を爪がかすめた。
「ちょっ、何すんの! 危ないじゃん!」
咄嗟に顔を引っ込めたおかげで届きこそしなかったが、危うく顔に引っかき傷が残るところだった。私はミーに詰め寄る。
「そんなに言いたくないこと?」
猫にとって最大級の侮辱か暴言でも言ってしまったのだろうか。でも、それなら私がニャーンと言った時点でミーは憤っているはずだ。あの反応から察するに、きっとミーには意味の通らないことが聞こえたのだと思ったのだが。
「……だ」
ミーが何か言う。声が小さくて聞こえない。
「え?」
「うう……」
私は再び顔を近づける。ミーは周囲をキョロキョロ見回すと、誰もいないのを確認して私の耳元に口を寄せた。
「好きだ、って言ったの」
ミーの声が流れ込む。私は一瞬、固まった。
そして、数秒間よく考えて、緩む。
「はあ……」
至極どうでもよさそうな返事が漏れた。
「なんだよ、その反応」
「いや、そこまで言い淀むことかなあって。それに私猫好きだし、あながち間違ってもなかっ……」
「シャーッ! 人間のそういうとこが嫌なの!」
ミーは毛を逆立てながらフーフーと呼吸を荒らげる。猫の威嚇行為にはいつも驚いてしまうが、ミー相手の今はやけに冷静だった。
「ごめんごめん、落ち着いて」
「……ったく、これだから最近の人間は」
ぶつくさ文句を言いながら、ミーは逆立った毛を元に戻す。謝れば一応話を聞いてくれる辺り、下手な人間よりは良心的だ。
「それで、なんでそこまで言い淀んだの?」
良心的だと、ついそこにつけ込みたくなってしまうのが私の悪い癖である。
「もういいよ。全部言うから」
てっきりまた怒られるかと思ったが、ミーは諦めたように言った。
「ミーの飼い主がさ、よくミーに言うんだよ。ニャーンって」
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