第1章

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べき関門でもあったのだが、??航空機母艦?≠ニ言うからには当然のことながら、従来の水上機母艦とは違って、フロートを持たない車輪の付いた航空機を自力で飛行甲板から発進させ、その後(のち)に再び元の所に無事着艦させて、これを格納庫に速やかに収納するまでを完璧にこなさなければならなかったのだ。即ち、この最も重大にしてかつ相当に困難とされていた、英国ですらこれを克服するに至らずもたついていたという、技術陣にとって難問中の難問であった、発着艦という、この、航空母艦としての生命線でもある、肝腎要となることが未だ解決されておらず、従って行われてもいなかったのである。  くどいようだが、縦横に大きく揺れている上に、強風に曝されている、百八十メートルほどの長さと、航空機二機分程の二十二、七メートルの幅しかない飛行甲板から、艦上機を勢いよく発艦させて、更に、今度は勢いのついたままで滑走しながら着艦しようとする艦上機をどうにかして壊さぬように無理なくスムーズに制動せしめ、最終的に狭い飛行甲板内で止めてやらなければならないというのだから、その運用の態勢作りや作業手順作りは容易ならざることであり、並大抵のことでは成し遂げられないことだったのだ。  着艦しようとする航空機を操る操縦士の誰もが抱くその不安感とは、例えて言うなら、低い所にある平均台と高い位置にある平均台とでは、それが同じ幅であっても抵抗感や恐怖感がまるで違うように、あるいは、平地に線引きされた着陸スペースと、それと面積は全く同じでも、海上高くに浮かんだ、動いている着艦スペースとは安心感の度合いが全くもって違うものなのだ。だから、実際の正味に加えた、余裕を与えてくれるだけの、余分な糊(のり)代(しろ)というのがなければ、それを行おうとする者に尚更不安を抱かせる心理が働いてしまうので、それがどうしても必要なのである。ところが、「鳳翔」の飛行甲板に関しては、その広さにおいてそれが充分ではなかったところに大きな悩みがあったのだ。  また、艦上機を受け入れる側の、空母の方としての、発着艦の方法の確立に苦慮していたのは、空母からの発着艦の方法に関する資料などない為、当然その運用方法も確立していなかったから、発着艦させられる用意が中々整わないばかりか、完成の見通しさえ立っていないことだったのだ。
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