第二章

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第二章

 燦々と太陽が照りつけ、きらきらと光が波に漂う。海中で泳ぐ界は心地よさそうにいきものの群れと戯れていた。だいぶ左腕がない分のバランスをとることができるようになって、界はのびのびと回転した。  舟の底の影に入り、界は舟の上の剣濫が釣り糸を垂れているのに気づいて、海面に顔を出した。それを剣藍の苦笑する顔が迎えた。 「界は本当に海で生きる一族なんだなあ。片方の腕がないとは思えないよ」  共通語を使う剣濫の言葉に笑顔で返し、界は舟に手をかけて勢いをつけて乗った。その弾みで揺れた舟に、剣濫が迷惑そうに顔をしかめた。 「魚が逃げちゃうじゃないか」 「こんなところでつれないよ」  界は笑いながら、腰の籠を軽くあげて見せた。 「本当に界は優秀だよ」  肩をすくめて、剣濫は釣り具をしまい始めた。  界と剣濫が群晶島を出て一週間になろうとしていた。剣濫は決して急がず、のんびりと風の赴くままに舟を動かしているようだった。界は自分がどこにいるのか、時々剣濫に確認しながら、一日の大半を海の中で過ごしていた。 「剣濫、次の陸地が見える」 「うん、あの島で水や食料を補給しよう」  剣藍の言葉に、界はエンジンをかけた。界の村では手漕ぎの舟しかなかったため、界は率先してエンジンの仕組みを学び、今では剣濫に見ていてもらうでもなく操れるようになった。 「あの島は、どんな一族が住んでるんだろう?」  界の好奇心に満ちた瞳を避けるように、剣濫はかすかに困った表情をした。 「あまりかかわり合いにはなりたくない方々なんだけど、ね」 「どういうこと?」 「ああ、ほら来た……」  剣濫がこめかみを抑えるようにした。  島の方から舟が近づいてきていた。界は不思議そうに剣濫とを見比べるようにした。  近づいてきたのは、動物の毛皮を身体に纏って武装した男たちだった。不穏な気配を放つ彼らに、さすがの界も状況が芳しくないことくらいは分かった。剣濫は舟の舳先に立つと、共通語とも群晶島の言葉とも違う言葉で名乗りをあげた。 「狼(ろう)一族の方々とお見受けする! 我ら二人は、群晶島より来たる旅人なり! 水と食料だけ調達せば、すぐに御一族の孤狼島より出立する!」
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