第1章

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「ある日、お城で舞踏会が開かれることになりました。身分の高い人たちが、みんな招かれました。意地悪なお姉さんたちも招かれました。二人は大喜びでした。サンドリヨンは、二人のお姉さんたちに似合うドレスと髪飾りを選んであげました。サンドリヨンが髪を整えてあげている最中、お姉さんたちは言いました。 『サンドリヨン、お前も舞踏会に行けたらって思うだろうねえ?』 『舞踏会なんて私などの行くところではありませんわ』 『その通り、〈灰かぶり〉が舞踏会に行ったりしたら、きっと大笑いよね」  私の知ってるシンデレラと違う。記憶では、シンデレラが舞踏会に行きたいって言って、お姉さんたちが意地悪して拒んだ。  子供騙(だま)しの童話。そう思っていた。それは違うのだと、『子供騙しの童話』を語る遙人の、真摯(しんし)な眼が伝えてくる。 「お姉さんたちが舞踏会に出かけた後、サンドリヨンは泣き始めました。それを見ていた名付け親が」 「名付け親?」 私は子供より先に声をあげた。 「うん。昔、子供に名前を付ける名付け親って人がいたんだ。日本ではあまりなじみがないよね」  私も子供たちも「へぇ~」と目を丸くするばかりだ。名前は親が付けてくれるものだとばかり思っていたから。 「名付け親は実は妖精なんだ」 「魔法使いは?」 「サンドリヨンには出てこないんだ。代わりに妖精がカボチャを馬車に、ネズミを馬に、トカゲを召使いに変えるんだ。サンドリヨンに綺麗なドレスと、ガラスの靴を贈って、舞踏会に行かせてあげました」  遙人は話を戻すと、また恍惚(こうこつ)とした表情で語り始めた。子供たちより遙人の方がずっと楽しんでいるような気がする。  それでこそ、『文学男子』らしい。 「最後に、名付け親はサンドリヨンに言いました。 『十二時より遅くならないこと。それ以上ぐずぐずしていると、全てが元に戻ってしまいますからね』 サンドリヨンは十二時までに帰ってくると約束して、舞踏会に出発しました」  サンドリヨンのように、気立てが良くて、いつも優しくいるなんて、私には出来ない。悔しいとか、悲しいとか腹立たしいとか、そういう感情を抑え込めるほど、私は立派じゃない。  ただ綺麗だからとか、優しいからとか。サンドリヨンはそんな単純な言葉では表せない何かがあるんだ。  いつの間にか、私は子供たちと一緒になって話の続きを待ち望んでいた。  
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