透明ゆえに、誰も気づかず。

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 悲鳴に怒声。  溜息に嗚咽。  ここは――――  地獄だ。  胃の奥から込み上げて来る酸っぱいものを必死で堪える。  目に涙が浮かぶ。  背中を丸め、右半身を、すぐ傍にあった壁にもたれさせようとするも、スルリと壁をすり抜け、地面に横倒しになった。 「透明人間になんかなるもんじゃない。早く、元の姿に……」  自分でそう呟いて、ハッと気が付いた。  この薬の効果を失くす薬は開発されていたのか?  いや、開発されていたとしても、全てのものを透過させてしまう体。  その薬すら、手にもつことも、口にすることも出来ないじゃないかっ!  こちらの世界で生き残る為に醜悪なる悪鬼となるべきか。  それとも、このまま人間として最期を全うする為、餓死するのを待つか。  どちらにせよ。  俺が俺でいられる時間は、あと僅かだ。  自由と解放を求めた人も。  俺のように、ただ「知りたい」「なりたい」という欲求だけで、この薬に手をだした人も。  罠に嵌められたんだ。  泣こうが喚こうが怒鳴ろうが。  もう、俺達は元には戻れない。  ガックリと首を垂れ、その場にへたりこむ俺は、体が反応するまま、涙を流しながら吐き続けた。
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