Curriculum1 「おしゃべりなマネキン」

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私「小河原秋」(おがわらあき)の日課というのはおそろしい。 中学から身についた癖とはいえ、まさか大学に入ってもやるとは思わなかった。 私は自分の住んでいる家賃6万のアパートを出て目の前にそびえ立つ真っ白い建物に向かう。 学生寮「大須賀寮」。 大学の寮ってのは汚いイメージだったがそんな事はなかった。どっちかというと病院みたいな感じ。入居者は60人でけっこう貧乏人がすんでるやらなんやら。 それでも大学の施設だからか、ちゃんと正面玄関はアパートみたいにしっかりしている。 とはいいつつもどこもかしこも鍵はされておらず自由に入ったり出たりできる。 私は裏口へと回る。 何で裏口か?だって、いちおう管理人のおじいちゃんが玄関にいるんだもん。 だから、裏口から入って日課を済ますの。 私はさっさと二階にある角部屋、しかも裏口から一番遠い2-1Aの鍵の掛かってない扉を開ける。 「お、秋ちゃん」 鍵のかかってない無法地帯、瓦礫のようになってる本の山からにゅっと手が現れる。 私は大量の本に近づくと、スウェット姿の男が本に埋まれながら、本を読んでいた。 私がきたというのにまだ動く気はないようだ。なんてやつだ。 「ほら、早く大学行くわよ」 そう、これが日課。この男「赤坂九凸」(あかさかくりす)を迎えに行くというのが日課なんだ。 大学生になってもなにやってるかって? だってこの男そうでもしないと、 「めんどくさいなー」 そういって、少し出てた体をもぞもぞと巣に帰ろうとする。 はあ、とため息をつく。 中学のときからそうなのだ。 この男はぜんぜん学校に来なかった。 学校に来ないで何をしてるかと思うとごろごろしながら本を読んでいたという。 そのせいで、当時クラス委員長だった私が先生と一緒に九凸の家に行ったことがきっかけで、この日課が始まった。 問題児を連れて行く先生と委員長。 うん。なんかありきたりだよね。 とはいいつつも、高校が同じになったときも私が入学当初九凸の家に行かなくなった時は来なかったのだ。 つまりは、この男は誰かが迎えに来ないと動く気がないのだ。 仕方なく中学からの知り合いってことで私が迎えに行って、なんとかこの男を卒業させた。 今となっては当たり前になってんだけだ、どうも九凸のめんどくさがり屋はいつまでたっても直ってないんだよね。
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