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ああ、俺の手。
俺の体躯。
俺の心。
その隅々に至る細胞の全ては、一片の空も残さずに『咎人(とがびと)』たちの穢れた血で黒色に染まり。
俺の歩んだ道程には……
死屍累々と。
屍山血河と。
腐敗したその屍や骸たちが、陸に打ち上げられた魚の如く横たわり『シネ、クルシメ、オマエモヲワレ』と一斉一同に呪詛を吐く。
ああ、そうだ。
絶望(りかい)して、理解(ぜつぼう)しろ!
今更この俺が『歩むべきその道を変えること』など到底できるわけがないのだと!
ああ、歩き続けるのだ。
我武者羅(ひたすら)に。
終焉(おわり)に向かってこの道を。
ああ、終わらせ続けるのだ。
遮二無二(ひたすら)に。
人道を踏み外した『咎人(とがびと)』たちのその道を。
その首が一つ。
その首が二つ。
その首が三つ……
ああ、もう万は裕に超えたであろう。
これ以上、数を記すのも莫迦らしい。
積み上げられた屍の山々からは夥しい量の血や腐って黄ばんだ体液、糞尿などが止めどなく流れ出て。赤茶色に濁ったその川を生きの良い大量の蛆虫たちが意気軒昂(ピチピチ)と耳障りな腐肉を蝕む蠢騒(メロディー)を奏でる。
そう、この道は地獄。
どこを眺めようが瞳に映るその光景は変わらず。ああ、どこまで歩もうが、俺の世界は永遠に変わることはない。
その地獄の道程を、
今は無為、呑々と生き。
今は無為、悠々と歩む人鬼(にんげん)が一人。
――かの者の名は……
『山田浅右(ヤマダ=アサエ)』。
この日本国において遠き昔は江戸時代より、先祖代々と受け継がれる『死刑執行人(マイスター)』と呼称される呪われた血族の嫡男である。
そう俺は、亡き祖母が用意した血と屍と魑魅魍魎が跋扈するこの道を無為の一歩たりとも踏み外すことはなく。
今日も『可憐で清楚な女子生徒』を見事に興じて見せながら、『女装生活』という名の『生き地獄』を順風に歩み続けているのだ。
――ああ、頗る遺憾である。
―― 鬼道/了 ――
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