受難/

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 古き良き日本文化が息づく花の都、京都。祇園街を西から眺める愛宕山を超えた先にある周囲を山岳に囲まれた陸の孤島。  ここ南丹市は現在日本国の特別行政特区に指定され、次世代の『死刑執行人(マイスター)』を育成する為の国際教育機関(インターナショナルスクール)が運営されている。  そう、俺の新たな生き地獄はこの場所から……  祖母の残した遺言から始まったのだ。 「ハッハー! ようこそ、我が学園へ! 歓迎しようアサエ・ヤマダ! 本当に久しぶりだねぇ。あの時の坊やが随分と立派に育ったものだぁ、うん、うん!」  針金のように線が細く、まるで蜘蛛を思わせるような長い手足。それでいて胸部には大層立派なモノをぶら下げている。まあ、例えるならばスーパーモデル体型といった所だろう。  手には汚れ一つない純白の手袋を付け、白いシャツの上に黒い手術着を羽織って首元には黒い蝶ネクタイを着用。ああ、一見して奇妙な恰好に見えるが、これは遠く独逸国(クラウツ)の地において代々継承される『死刑執行人(マイスター)』の正装であったと記憶している。  汚れ一つない真っ白な壁で覆われた大きな部屋。  設えてあるソファやサイドボード、照明器具などの調度類は全て黒色で統一され、部屋全体に厳格な雰囲気を作り出している。繊細な装飾が施された木製の大きな扉からまっすぐに皺なく引かれた金糸の刺繍が施された漆黒の絨毯が向かう先。部屋の最深部に鎮座するアンティーク調の黒檀。  その重厚な執務席から立ち上がりながら、そいつは芝居がかった口調と満面の笑みを浮かべて俺を出迎えた。
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