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「ベッドは一つしかありません」
「僕、身体は小さいよ」
「うーん……」
どうしようかと悩んでいると、廊下の向こう側からラースが歩いてくるのが見えました。彼は私の姿に気がつくと、軽く手を上げてきます。
「よう、どうした」
ラースはすぐにグラントの姿に気がつき、首を傾げました。私は彼に少年を紹介し、簡単に今回のいきさつを説明したのですが。
「大丈夫か」
ラースが私の前髪に触れ、少しだけ気遣うように笑います。「疲れているようだ」
「大丈夫です」
私は慌てて彼の手を振り払い、ぎこちなく笑い返しました。最近の私は変です。ラースの優しい仕草とか、その微笑みに心が乱されてしまいます。それを彼に知られたくありませんから、できるだけ素っ気なく言います。
「疲れたので寝ます」
「独り寝か?」
ラースがそうからかうように言って、その手をまた私のほうに伸ばしてきました。その指先が私の頬を撫でた瞬間、背中にぞくぞくとした感覚が走ります。私が慌てて彼から遠ざかるのと、私の前にグラントが両手を開いて立つのが同時でした。
「何すんだよ!」
グラントはそう言ってラースをきつく睨みつけています。その姿は、勇者とやり合ったときそのままでした。
「大丈夫ですよ」
私はすぐにグラントの肩を叩き、彼の腕を取って歩き出します。仕方ないですから、今夜は少年と一緒に眠ることに決めました。とにかく、ゆっくり休んだほうがいいと思いましたから、早く部屋に向かったのですが。
後ろで、ラースが苦笑したのが解ります。そして、こう呟いたのも聞こえたのです。
「気にいらねえなあ、一丁前に『男』の眼をしてやがる」
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