591人が本棚に入れています
本棚に追加
/329ページ
無邪気な笑顔を見下ろしつつ、私はこう応えます。
「いつでも魔王様の命令を受けて外に出られるように、待機しています」
「命令?」
「ええ。たとえば、人間を襲ってこいとか襲ってこいとか襲ってこいとかです」
「それしかないんだ?」
「……たまには別のこともありますけどね」
私はそう言いながら、そっと首を傾げます。他に何かあったでしょうか? よく解りません。
そして我々は魔王様がいる大広間へと向かいます。私の日課といえば魔王様のそばに控えていることしかありませんでしたからそうしたのですが、どうやらグラントは私と一緒にいることを選んだらしく、迷いもなく後をついてきました。
そして、大きな扉をそっと開き、その中に足を踏み入れたとき、私は困惑して足をとめました。
魔王様が座っていらっしゃるのは、いつもの大きな背付きの椅子です。いつもと違うのは、今日の魔王様はどうやらまだ眠っておられるようで、肘掛けに肘をつき、その手にもたれかかるようにして眼を閉じておいででした。
そして、魔王様のすぐ横には、見馴れぬ姿がありました。
どうやらそれは、夢魔のようです。
背の高い男性で、金色のカールした短い髪と、深くて冷ややかな輝きを放つ蒼い瞳を持っています。痩せた身体にはえんじ色の服をまとい、黒いマントをつけています。派手なピアスをつけた彼は、どこかうんざりしたように魔王様を見つめていました。
彼は私たちの存在に気づかないようで、何ごとか小さく呟いた後、その右手を魔王様の額の辺りにかざしました。
途端、辺りに閃光が走ります。
気がつけば、魔王様の椅子の後ろの壁に、大きな映像が浮かび上がってきていました。おそらくそれは、魔王様が今見ている夢の映像です。ひどく鮮明な映像に、私は驚きます。
そして、その夢の映像に視線を奪われました。
夢の中に、魔王様がいらっしゃいます。そして、それに向かい合っているのは勇者です。
しかし。
最初のコメントを投稿しよう!