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「放っておいてください」
大広間を出て廊下に立ってから、私は彼を振り返りました。「あなたには関係ありません」
「……まあな」
彼はまた、そっと笑いました。どことなく、苦しげに。
いつにないそんな彼の様子に、私は戸惑いながら見つめ直します。するとそんな私に気がついたのか、彼はわざとらしく皮肉げな笑みをその口元に浮かべ、こう言いました。
「お前、男とヤったことがあるか」
「はあっ?」
私はさらに声を張り上げて顔をしかめました。
いきなり何を言うのでしょうか、この男は。
「それとも、最初は魔王様に抱いてもらおうって考えてるのか」
「な、何を」
私は自分の頬が熱くなるのを感じました。どんな顔をしているのか自分では解らず、それでもこんな自分をラースに見られたくなくてこの身を翻しました。
城の内部にある私の部屋に足を向けながら、私は冷たく言います。
「余計なお世話です。そんなこと、あなたには全く、これっぽっちも、爪の先ほども、関係ないじゃありませんか!」
「関係はあるさ」
私の後ろで、ラースが言いました。「俺は、お前とヤりたい」
「な、何をバカなことを……!」
私が混乱して振り向くと、ラースは少し離れたところに立ったまま、私を見つめていました。どことなく、真剣な眼差しで。
「お前が好きなんだ」
彼がそう言って、少し、危険だと思いました。
彼が私をからかっているのは間違いありません。彼が私とそういう行為をしたい。そんなこと、絶対にあり得ない、そう思います。
だから、私は微笑んで言いました。
「私は、魔王様だけが好きなのです」
そして、彼をその場に残して立ち去ったのです。
「わーはっはっはっは」
今日も魔王様は上機嫌です。
水晶玉の前で怪しげに笑いながら、マントの裾を翻して無意味にポーズをとってみたり、とても楽しそうです。
私はそんな彼の姿を見ているのが好きでした。
ああ、この方は変態なんだ、と思っても、それが魔王様なのですから仕方ありません。ただまっすぐに彼を見つめること、それが私の日課であったというのに。
「よう、元気か」
また、ラースが私の横に立ちました。
私は体を強ばらせ、彼を見ないようにします。できるだけ彼の言葉にも返事をしないようにと。
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