第1話

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「放っておいてください」  大広間を出て廊下に立ってから、私は彼を振り返りました。「あなたには関係ありません」 「……まあな」  彼はまた、そっと笑いました。どことなく、苦しげに。  いつにないそんな彼の様子に、私は戸惑いながら見つめ直します。するとそんな私に気がついたのか、彼はわざとらしく皮肉げな笑みをその口元に浮かべ、こう言いました。 「お前、男とヤったことがあるか」 「はあっ?」  私はさらに声を張り上げて顔をしかめました。  いきなり何を言うのでしょうか、この男は。 「それとも、最初は魔王様に抱いてもらおうって考えてるのか」 「な、何を」  私は自分の頬が熱くなるのを感じました。どんな顔をしているのか自分では解らず、それでもこんな自分をラースに見られたくなくてこの身を翻しました。  城の内部にある私の部屋に足を向けながら、私は冷たく言います。 「余計なお世話です。そんなこと、あなたには全く、これっぽっちも、爪の先ほども、関係ないじゃありませんか!」 「関係はあるさ」  私の後ろで、ラースが言いました。「俺は、お前とヤりたい」 「な、何をバカなことを……!」  私が混乱して振り向くと、ラースは少し離れたところに立ったまま、私を見つめていました。どことなく、真剣な眼差しで。 「お前が好きなんだ」  彼がそう言って、少し、危険だと思いました。  彼が私をからかっているのは間違いありません。彼が私とそういう行為をしたい。そんなこと、絶対にあり得ない、そう思います。  だから、私は微笑んで言いました。 「私は、魔王様だけが好きなのです」  そして、彼をその場に残して立ち去ったのです。 「わーはっはっはっは」  今日も魔王様は上機嫌です。  水晶玉の前で怪しげに笑いながら、マントの裾を翻して無意味にポーズをとってみたり、とても楽しそうです。  私はそんな彼の姿を見ているのが好きでした。  ああ、この方は変態なんだ、と思っても、それが魔王様なのですから仕方ありません。ただまっすぐに彼を見つめること、それが私の日課であったというのに。 「よう、元気か」  また、ラースが私の横に立ちました。  私は体を強ばらせ、彼を見ないようにします。できるだけ彼の言葉にも返事をしないようにと。
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