霧がかった記憶

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「なら、ツツバヤは一番上の女神より地位が高い……?」 「そんなことになったら、一番上の女神はツツバヤなのだ。自分で自分を閉じ込めるなんてありえない」 「だけど一つわかるのは、一番上の女神がツツバヤを殺せないということ」 「……本人には聞けないのだ?」 リリーはリュのポシェットに目をやった。 直接聞けるか、ということだろう。だがツツバヤは黄色い真珠の姿だ。話が出来るわけがない。 「聞けないよ。真珠の姿になってるから」 「珍しいのだ。黄色い草じゃなくて真珠に変身しているなんて、珍しいのだ……。」 そして一呼吸置き、 「ウェザブーチェンの静物と会話する方法なら、ある」 「え?」 ウェザブーチェンの『静物』と……会話? 「方法があるんですか?」 「ああ。スズランの飼っていた、黄色い草を沢山食べた羊の羊毛があったのだ。我もその1人だが」 「……うん」 黄色い草原を歩いている沢山の羊の姿が頭に過ぎった。きっとあれは全て、元は人間だったのだろう。リリーさんのように。 「その羊の毛を織って出来た紙は、ある特定の意思を吸収することができるのだ」 「つまり?」 「ウェザブーチェンを持つの全ての動物・静物の意識や会話を読み込むことができるのだ。その中から最も表示しやすいものを文の形で綴る。簡単に言えば、その紙の近くにウェザブーチェンの呪いにかかった人がいれば、情報として紙に記録される、というものだ。」 そんなものが本当に存在するのか……? 「魔法の紙……?」 「普通に織られた紙ならば、全ての会話が記録されるわけではないが。契約をした1人のみの人物の意思が文字化されるだけだ」 全ての会話が目に見えるように記録……されるわけではない。 契約をした1人のみ、か。 なら、その紙には契約をした特定の人物1人の思考や頭のなかで言いたかった言葉が記されるわけだ。ウェザブーチェンで黄色い草に変えられた人々の犠牲によって生まれる紙……。 1人のみの思考や言いたいことが紙に並べられる? 文字化? 考えてみれば、ラベンダーと話をしていた『ロゼルの日記』は、一体何なんだ? あれはラベンダーの意思がそのまま綴られていったじゃないか。意外と身近にあるものだった。 全て、人の命が原料となっている。あの日記、紙は1枚じゃなかったはずだ。何十ページもあっただろう。いくつ人の命が使われたのだろうか。 ラベンダーは、どうしてそれを……?
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