霧がかった記憶

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「国へはどうやって入るんだ」 「正面から入っても問題ないのだ。向こうに我とトブのことが知られていなければ、な」 正面から入って問題ない……か。 「スズランはペルダモに取引に基た時、いつもあの柵の中に羊を入れて作業するのだ」 国の方角を指差すリリー。 柵らしきものは小さすぎて見えない。 「どこ?」 「ほら、あそこにあるのだ。門の右側」 そう言われても見えないものは見えない。 だが、リリーは目を凝らし、「羊はいないのだ」と言う。 「あそこに羊がいないということは、やはりスズランはペルダモへは来ていないのだ」 女神のサブ能力なのかおまけなのか、視力まで上がるのか。 リュにはぼんやりとした大きな影しか見えない。 「よし。我はトブの……そうだな、姉になるのだ」 ……リリー? 聞き違いか? 今、リリーがリュの姉になると言ったような言ってないような。 「ど、どうしたんですかいきなり」 「そっちこそどうしたのだ。いきなり敬語で。」 そりゃ、リリーは年上だけど。 背もリュとそんなに変わらないじゃないか……。 姉、と言われると不思議な気持ちだ。 「我はトブの姉、つまり兄弟として、堂々正門からペルダモに入国するのだ。もちろんトブも一緒で」 ……ん? 姉って、そういうことか。 「でもどうやって入国するんだ」 「何なのだ? 今言った通りの手順なのだ」 「それは、リュがもし『町パス』を持っていたらの話だよね」 リリーの顔が青く引きつる。 「……お主」 「リュは、町パスなどというものは持ってはいない!!」 虚しく風が吹く。 お互い喜びとは別の意味の笑顔。 「それにリリー、1つの町パスで2人も国へは入れないよ」 「……そうなのだ……?」 どっちにしろ、ペルダモへ入国するのに、正面から堂々なんて選択肢はなかった訳か。 『町パス』とは、町パスポートの略。入町・入国に必要なパスポートで、街に入るときは家族で1枚以上、国に入るときは1人一枚要る。 今までは「国王が知り合いだった!」で入国させてもらったり、マーガレットの町パスで町を訪れたりしていたため、入れない、なんてことは初めてである。 いつもの北を目指す旅とは違ってここを越すわけにはいかない。 マーガレットを助けるために来たのだから。
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