霧がかった記憶

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マーガレットがペルダモ国という国に連れて行かれてしまった。そこはウェザブーチェン関連の製品作りを産業とし、姿が変わった人の命である黄色の草を躊躇いもなく使っているらしい。別称、『殺人の国』。 もちろんそんな所にマーガレットが連れて行かれて良いはずがない。道中に出会った、リリーと名乗る変な口癖の女の人と、ペルダモ国について情報を貰いながら草原を走っていた。リリーは、元はスズランさんの羊の姿にされていて、リュが通りかかった時に何故か偶然元の姿に戻ったのだ。 それを運命とも言うのか。 リリーは、長い白髪を揺らし、リュに言った。 「」 ……な、何を言っているんだ? リリーは、誰のことを。 そもそもリュに兄はいない。妹……は居るかどうかわからないが、一応書物にはマーガレットが実の妹であると書かれていた。家族の記憶は一切ない。 それでも、リュに兄がいたというのか。 覚えていないだけで、確かにリュには兄がいたのか……? リリーは溜息混じりに言う。 「そうか、お主の頭の中には兄……エサンと暮らした記憶は無いのだな。エサンはよく君の事を話しに来てくれたというのに。」 「そういえば、マーガレットも最初会った時、エサン・カタラってお兄ちゃんがいるって言っていたような……!!」 そうか、マーガレットが話していた『お兄ちゃん』はリュじゃなくて、そのエサンさんだったのか。 でも、リュはその人の顔がわからない。 向こうは知っていて、リュは知らない。家族だった筈なのに、父さんの顔も、母さんの顔も、思い出そうとしても居た記憶さえ無い。 あるのは、ツツバヤと暮らした日々の欠片が少しだけ。 「やっぱり……ウェザブーチェンは残酷なのだ。知りたい時に知れなくて、知りたくない時に全て明かされてしまうのだ」 「……リリー?」 リリーは、静かに泣いていた。立ったまま、そっと涙を流した。 「どうしたの?」 「なんでもないのだ。まだ、お主は知らない方が良い。ただ、忠告しておく。お主は絶対にツツバヤを食べるな。マーガレットは、絶対に黄色い草を食べるな」 「そんなことしないよ」 「もし、我のように偶然が重なれば……いつか、絶対に同じ苦しみを味わうことになってしまうのだ。」
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