霧がかった記憶

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「歩きながら話すのだ。でないと、時間が惜しい。お主、転んだな。歩けるのだ? 何なら背負うのだ」 女の子に背負われるのは……なんというか、敗北感がある。 「大丈夫。怪我しない事だけはウェザブーチェンの救いだよ」 「だが、そのせいで生きた心地もしないのだ」 リリーが再び歩き出した。立ち上がり追う。 空は雲がなく、一面を星空が覆っている。 下を見ると地面に生えている草は黄色ばかりで、踏んでしまうのをためらったがそうもしていられない。同じように踏んで歩くリリーを追うことだけに集中する。 「エサンは」 不意にリリーが話し始めた。見ると体の柔らかい光は収まっていたが、白いドレスを着ているので闇の中でよく目立った。 白い後ろ髪に隠れて表情は見えないが、声のトーンは落ちていた。 「エサンは、いい奴だったのだ。厳しい家で育てられたせいでなかなか周囲に馴染めなかった我を仲間に入れてくれたのも彼だったのだ」 この人は、リュの兄の話をしているんだ。きっと何度も遊んだのだろうけど、何も覚えていないのが不思議な感覚だ。 「……友達思いなんだね、その、リュのお兄さんは」 「正義感にも溢れていたのだ。リーダーシップがあり、頼りになる。責任感が人一倍強かったのだ。それが行き過ぎて自分を責め続けたこともあったくらいに。」 なんとなく人物像が頭の中に出てきた。たくましく、それこそ『正義の味方』にふさわしい人物像だ。ただ、自分を責め続けた、という所がどうも気になるな……。 「あの、何を責め続けたんですか? 友達思いで頼りになって。きっといい人だっただろうし、何も責めることなんかないはずじゃ……」 「それは、お主のせいとも言えるのだよ。トブ…… いや、ルーサブツ」 足は休めずに一呼吸置く。 「エサンは、あるときから家族と離れて暮らしていたのだ。ずっと昔なのだ。ちょうどお主くらいの背丈だったと思う。」 家族と、離れて……? 何のために。 「どうして、家族は」 「ああ、エサンは自分で稼いで、専門学校に行ったからなのだ。なんせ家と学校の距離が200km以上だったらしいから、毎日はとても通えない。だから、ひとりで学校のちかくの宿にとまっていたのだ」
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