霧がかった記憶

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捨てた……。 リュは、家族に捨てられた。 「ツツバヤは、厄介者扱いだったのだ。何でも神に蹴落された悪魔だとかなんだとか。そう噂されていたのだ。だから『近寄ると厄が移る』、そう言われていたのだ」 「家族の名誉を守るために……リュを、捨てた……。」 何も覚えていない家族。リュを育ててくれた、家族。 顔も名前もわからない両親と兄、それから当時妹だったマーガレットに見捨てられた、リュ……。 「エサンは己を追い詰めていた。学校になんて行かずに、止めておけばよかった、と。その時家族はお主のことをまるで知らないかの素振りをして、エサンが問い詰めた時もこっそり耳打ちしただけだったのだ。だからお主は……」 一呼吸置き、リュの目を直視せずに逸らして呟いた。 「もう、お主は家族なんていないのだ。見捨てられ、厄介者を匿い共に生きる道を選んだ。本当の家族なんて、思い出さない方がいいのかもわからないのだよ」 すまない、何も力になってやれなくて、とリリー。 本当の家族は、もういない。 ニセモノの家族だって居るわけがない。 それどころか放棄された。捨てられた。そんなことさえ思いだせないけど。 それに、努力して学校へ行った兄まで心配させていたのか。何も悪く無いその人を。リュも家族を裏切ったんだ。厄介者と呼ばれた少女と暮らす道を選んだ。家族は止めたんだろうか。もうだとしても、引き止める手を振り払って道を選んだのはリュだ。 そうして、どんどん大切な人を失ってきた。 リュは、ずっとひとりぼっちになっていたんだ。なっていった。いや、ひとりではない。ツツバヤがいたじゃないか。 ツツバヤとずっと一緒に頑張ってきた。ある日は悪口を言われ、穴の空いた鍋を投げられた。怪我したリュを手当してくれたのはツツバヤだったし、怪我したツツバヤに服を千切って作った包帯を巻いてあげたのはリュだった。ツツバヤは変わった料理を作ってくれて、とても美味しい訳ではなかったけど話しながら笑顔で食べた。 ツツバヤは、とても優しかった。だからリュもツツバヤと同じくらい優しく話しかけた。 お前たちは神の敵だ、この街の汚れだと言われた時に、ツツバヤに相談すると、彼女は地域でただひとり頷いてくれた。神を信仰するあまり、自ら努力することさえ忘れた狂った人が溢れかえっていた町に、リュとツツバヤ2人だけで声を張り上げて呼びかけた。 そんな日々は覚えているのに、家族のことは。
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