霧がかった記憶

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「……話が長くなってしまったのだ。もう日が昇ってくる頃なのだ」 辺りが明るくなり、左側へリュ達の影が伸びる。眩しさに目を細めた。 地平線から、太陽がゆっくりと頭を出した。 星空は消え、代わりにいつもの青空が頭の上を包んでいく。 雲がいくつか浮かんでいる青空。旅したくなる天気だ。 旅日和だ。心地よい晴れであった。 「ほら、あそこがペルダモなのだ」 リリーさんが指差した方角に、豆粒よりは少し大きく建物の影が見えた。距離や建物が黒く影になってよく見えないが、確かにそこに国境の壁があるようだった。長い壁。 「スズランさんはいつもここまで羊毛を運んでたのか……相当な距離だけど」 「ここまで来ることもあれば、幾つかある中間ポイントの小屋で取引をすることもあった。強風のポイントもあるし、流石にここへ毎日来るのは不可能なのだよ」 リュに向き直り、 「それで……何が違うのだ。ペルダモに入ってからは、いつ別れるか、あるいは死ぬかわからないのだ」 死ぬ。スズランさんがマーガレットとリュを殺そうとしていた事を思い出す。 これまで数年間、ウェザブーチェンに馴染んでから死ぬなんて考えた事がなかった。 今では、死ねない事が苦痛、殺されたとしても苦痛なんだ……。 「お主がまだ我に何か用があるなら、今の内に言うのだ。答えられる事も限られてはいるが、できる限り……」 「それが違うって言ってるんだ」
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