霧がかった記憶

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リリーの顔が、リュの肩に乗った。 再び泣いている顔が横目に見える。 ぎゅっと、抱きついてきた……。 「無理なのだ……。やめるのだ、もう、お主自身を大切にするのだ」 「……リリー、離し、て……」 リリーは、呼び捨てにしているが、兄の同級生だ。年上女子だ。抱きつかれるのはあまりにも緊張する。 しかし、 「ウェザブーチェンは神の支配下にあり、神は三部に分けられ、頂点の者は時をも制す。」 突然、意味の分からない事を言った。 「……リリー?」 「呪いを解く? 無理なのだ。だって、呪いはたった一人の神が制している魔法なのだ。悪い、悪い夢の様な魔法!」 リュを突き飛ばし、両手で顔を覆う。 力はあまりなかったが少しよろめく。 再びリリーの声に集中した。 「……狂ってしまいそうな程、尋常じゃない情報量。尋常じゃない、希望なんて一つもない事実。全部押し込まれて、もう何も言えないのだ……。こんな苦しみ、もう誰にも味わってほしくない、そう強く思うのだ」 空には、羽のような形の雲が浮かんでいる。 淡い青空は、どこか悲しそうにも見えた。 「トブ……我は今日、神となったのだ……」 「なっ?!」 神に、なった?! どういうことだ……? ツツバヤは、捕獲されなければならなかった女神だ。 でもリリーは、リュの兄とずっと一緒にいて、専門大学で学んでいた一般人じゃ……? 半笑いで答えるリリー。 「神は三種類いるのだ。一番地位の高い女神・トゥロネソル。それから、ツツバヤ達のような二番目の地位・ボウトン」 トゥロネソル、ボウトン……? 初めて聞いた。 「そして我のような、家族や友達の草を食べて神になってしまう、三番地位のニュアージュ。そして、その全ての神には漏れ無くウェザブーチェンについての情報が与えられる……というものなのだ。」 つまり、リリーは……。 「そうなのだ。一番下の地位ではあるものの、もう人間」ではないのだ。神、なのだよ……大切な、サークルの仲間を偶然であったとしても間違いなく食べた、人になんてとても戻れない神、なのだ……」 それに、と付け加えて続ける。 「一番地位の高い女神が、1人でウェザブーチェンを仕切っているのだ。それに無数の女神が従っている……。頂点を説得でもしない限り、呪いを解くなんて不可能。いや、それ以前、辿り着く前に、無数の女神に一撃で殺されてしまうのだ……だから、無理なのだよ」
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