はじまり

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今日何度目だろう。でも、何度だって言う。 一体どうしてこんなことに・・・。 「ね、ねぇ!いいから下ろして!」 「・・・ちょっと静かにしててください」 私はいま、この見るからにひ弱そうな男の背中にいる。 「なんの拷問!もう、恥ずかしくて死にそう・・・」 そんな声に応えることなく、そいつはただ前に進む。 なんなの! 女一人助けたからって、勇者気取り? 「・・・聞こえてます」 前から少し不機嫌そうな声が聞こえてくる。 「あー、もう!こんな細っそい腕の、どこにそんな力があるのよ~!・・・うぅっ・・」 「ほら、ぎゃーぎゃー騒ぐからですよ・・・」 体の痛みに、思わずその撫で肩ぎみの肉付きの少ない肩を掴む手に力がこもる。 「・・・・・・でも、どうしてあんなことに?」 あーあ、やっぱり聞くんだ。 そーゆーところ、空気読んでくれる人かと思ったのに。 「・・・・・・」 答えたくない、という私なりの返答。 その答えに、そいつはそれ以上何も聞いてこなかった。 あの場所から、さほど遠くはない、家へと続く細いくだり道。 時間のせいか、すれ違う人もいない。 あたりは静寂に包まれて、ときどき聞こえてくる虫の声が心地良い。 気づくと私は、その背中でウトウトとし始めていた。 そのあとのことは、もう、覚えていない。
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