淋しがり屋の私と、透明になった彼。

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仕事が終わって、帰宅する。 暗い玄関、冷たい廊下、静まり返るリビング。 「……ただいま」 細くて華奢な腕時計の針はもう深夜を指してる。 くるくると、この針も疲れたろう。 私も歩き回るのに疲れた。 仕事の後の"寄り道"も、最近では通りに面した二十四時間のファストフード店で無闇に時間を潰すようになっていた。 ハンバーガーを、食べ過ぎた。 静まり返っているはずのリビングから、微かな声が聞こえた。いや、これは音だ。 そっとリビングに足を踏み入れ、ため息。 「またやっちゃったかぁ……」 テレビ、つけっぱなし。 出勤前はテレビを見る事はないけど、帰宅してから出かける間に見る事はある。 バタバタしてると消し忘れるようなのだ。 テレビの前のガラステーブルに乗っているリモコンにソファーの背中から手を伸ばした。 ……あ、映画情報だ。 私は映画を観るのが好きだ。 というより、映画館に行くのが好き。 結婚して二年目くらいまでは、二人でよく行ったものだ。 お互いに趣味は合わなかったけど、並んで座って二時間半。 同じものを見ている時間が好きだった。
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