淋しがり屋の私と、透明になった彼。

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のろのろと着替えを済ませた。 ドライヤーの音は、私の聞き耳を塞ぐから髪がよく乾くように念入りにかける。 「……あ、DVDの返却、明日だ」 夜中に、ひとりで映画観賞。 髪が生乾きな気がするけど、もう時間も遅い。 バスルームを出て、部屋からDVDを持ってくる。キッチンで温かい飲み物をいれて、ソファーに腰を下ろした。 二人で座っても、まだ余裕があるのに。 ひとりで座っても、淋しいだけ。 そんなふうに被害者ぶったりしてても、彼は帰ってこないだろう。 DVDは優しい音楽に誘われながら、幕を開けた。 英語は苦手。でも、字幕のものを借りてくる。よく真似して喋ってみては、彼に笑われたっけ。 ガラステーブルに置いたカップが冷めていく。 いつの間にか映画はテレビではなくて、映画観になり、そして目の前で役者が踊りだした。 ……あぁ、眠ってるんだ。 気付いたけど、もうまぶたが動かない。 この映画は、最愛の人を失ってしまった女の物語。 ただ女の元を離れただけなのか。 それとも、どこかで死んでしまったのか。 もしかして、見えないだけなのか。 透明人間になってしまったのか。
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