淋しがり屋の私と、透明になった彼。

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主演の女優の台詞が、せつなく胸を締め付ける。 「……ねぇ、何処へ行ったの?」 滑らかな英語が、耳に優しい。 少し震える声が、心に淋しい。 「あの時は、ごめんなさい……」 宝石みたいなブルーの瞳から、輝きがこぼれる。 「淋しいよ、帰ってきてよ、泣いちゃうよ……?」 縮こまる背中。 流れるブロンドの髪。 繰り返し唇が、彼を呼んでる。 座ったまま頭の重みで傾いた首や肩が痛みを訴えてきた頃。 ふわりと肩が暖かくなった。 まるで、背中から誰かに抱きしめられているみたい。 ……誰? こんなに暖かいのに、苦しくなくて。 こんなに暖かいのに、せつなすぎる。 映画の中の女と、男もこんな風に体を寄せては、微笑みあってた。 私たちにもあった……こんな時間が。 「……愛しているよ」 ふわりと吐息のような言葉。 英語で言ってもちょっと恥ずかしくて、日本語だともっと胸が苦しくなる台詞。 最愛の人は、女のところに帰ってきたのかな……。 あぁ、なんだか、懐かしいにおいがする。
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