一軒家の老夫婦

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一軒家の老夫婦

 駅から自宅までの道に小さな家がある。  一階建てのこじんまりとした家で、窓が通りに面してるから、いつもカーテンで覆われていた。  日のある内は判らないけれど、遅い時間に通ると、室内灯の明かり越しにたまに人影が浮かび上がる。  ぼんやりながらに見えるシルエットは二つ。どうやら老夫婦の二人暮らしらしい。  どんな人達かは知らないけど、なんとなく、ほのぼのしたおじいちゃんとおばあちゃんを想像していた。  そんなある日。  一台のトラックがそこの家の前に停められ、あっという間に小さな一軒家は解体された。 「あの、ここの家って、お年寄りのご夫婦が住んでるんじゃ…」 「あ? ああ、以前はな。でも何年も前に二人とも亡くなって、このまま空き家にしておいても仕方ないから、息子さんの依頼で駐車場になるらしいぜ」  反射的に声をかけたら、工事に来ていた人の中に事情を知っている人がいて、俺にそう教えてくれた。  老夫婦はいたけれど、何年も前に亡くなってる? じゃあ、俺が時々見た人影は何だったんだ?  釈然としないまま日々を過ごす内に、一軒家が経っていた土地は駐車場へと生まれ変わった。  そこで、ある日見つけた小さな影。  一目で歳を取っていると判る猫が二匹、駐車場の真ん中にいた。  居心地なんて絶対よくはないだろうに、じっとその場にたたずんでいる。  それを見た瞬間、俺は、自分がたまに見てきたものが何であるのかを悟った。 「おい。そこにいたら出入りする車に轢かれちゃうぞ」  声をかけると二匹が同時に振り向く。そののんびりとした動きが妙に懐かしい。 「もうここは駐車場だから、前みたいにのんびりは暮らせないぞ。…嫌じゃなかったら、ウチ、来いよ。家族全員生き物大好きだし、狭いけど庭もある。どうだ?」  にゃあん。  揃って鳴いた二匹の猫が、よたよたと俺の方に近寄って来る。その体を俺は片手ずつで抱え上げた。 「今日からよろしくな。一軒家のじーちゃんばーちゃん」 一軒家の老夫婦…完
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