セカイの終わり

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『最悪だ……この世の終わりだ……』 そう画面に字幕が表示されて、頭を抱えた白人の中年男が映し出される。 猛烈な風が吹き荒れて、道路を走るトラックが宙に浮き、航空機が墜落して爆発炎上する。 竜巻で巨大な建物が捻るように粉々に砕かれ、空へと舞い上がっていく。 人々は悲鳴を上げながら、ありもしない逃げ場所を探して右往左往し、倒れた者を踏みつぶす。 薄暗がりの空には、刻一刻と接近する巨大な隕石らしき影……。 そこで、ふっとテレビの画面が消えた。 しばらく、ぼんやりと真っ暗な画面を眺め続けた。 そうか、ついに電気も切れたのか。 テーブルの上には、まだ見ていない『この世の終わり』系のDVDが何枚も転がっている。 昨日、廃墟同然となった近所のレンタル屋へ行って、持ち出して来たものだ。 まあ、いい。 どれも似たようなものだ。 隕石が落ちて来たり、宇宙人が攻めて来たり、致死性ウイルスで人類が全滅する。 主人公は皆、なんとか生き延びようとするか、最後にやり残した事をやりとげようとするか。 いずれにしても、最後は皆死ぬ。 それは変わらないんだ。 俺は立ち上がると、引き窓を開けてベランダへ出た。 雲ひとつなく晴れ渡った、秋の空。 心地よいそよ風が、優しく頬を撫でる。 アパートの10階からは、この小さな街が一望できる。 この景色が気にいって、この部屋を契約したのだ。 遠くに筋状の煙がいくつか上がっている他は、いつもどおりの光景だ。 ただ、辺りは全くといっていいほどの静けさに包まれている。 そう、あと5時間。 夜を迎える5時間後に、このセカイは消え失せる。 隕石でも、宇宙人の攻撃でも、致死性ウイルスでもなく。 たかがこんな、ちっぽけな事で。 腹が減ったな。 俺はキッチンへ行って、今やただの箱となった冷蔵庫からサンドイッチを取り出し、ゆっくりと噛みしめる。 これもさっき、無人となったコンビニから持って来たものだ。
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