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サンドイッチを口にくわえたまま、スマホをスピーカーに繋いで再生ボタンを押す。
開け放たれた窓から青い空へ向って、俺が生まれる遥か昔に流行った曲、ヤング・ラスカルズの”Groovin’”が放たれていった。
悪くない。
20歳の俺には、まだまだ聴いた事がない音楽が一杯ある。
それがもう聴けないと思うと、少しだけ心がちくりと痛んだ。
さあ、あと5時間、何しようか。
床に寝ころんで、ぼんやり窓の外を眺める。
学校をサボった日のように、このまま家で空を見ながら寝てしまうってのも悪くない。
世界の終わりを知ったのは、昨日の朝だった。
普通に学校へ行ってみたが、講義などあるはずもなく、集まった何人かの学生が困ったようにその場に立ち尽くしていた。
実家に帰って最後に親に会おうかと思ったが、交通機関は全てストップ。
スマホの電波も消えて、誰とも連絡は取れない。
街から人の姿は消え去り、静けさだけが世界を包み込んでいる。
映画で観た、阿鼻叫喚のセカイなんてどこにもありゃしない。
なにせ、こんな終わり方なんだから。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえる。
「だれ?」
ドアの向こうから、間延びした声。
「あーたーし。アオイだよ」
「カギ、かけてねえよ」
勢い良くドアが開き、大きなビニール袋を抱えた同級生の女の子、アオイが部屋に飛び込んで来た。
「よう、やっぱりここにいたか」
「だって、行くとこねえし。何しに来たのおまえ」
「あんたを殺しに来た」
急に顔をしかめて、ビニール袋に手を入れ、ピストルのような突起物をこちらに向けるアオイ。
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