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「ばーか、それバナナだろ」
「へへ、わかっちゃった」
アオイはけらけら笑いながら、袋からバナナやチーズやシャンパンやらワインやらを取り出す。
「一緒に、最後の晩餐とでもいきますか」
「おう、いいなそれ」
俺たちは、ベランダから抜けるような青空を眺めながら、シャンパンを瓶の口からガブガブと飲んだ。
「これが、ドンペリか。実際飲むと、大したことないもんだな」
「そうだね、イヒヒ」
アオイが顔をくしゃくしゃにして笑う。
「なんか、ヒマだな」
「じゃあ、アレでもする?」
「する、って、おまえとはそういう仲じゃないだろ」
「それもそうだねえ」
大きく伸びをして、あくびをするアオイ。
「じゃあ、君は何をしたいのかな?」
「そうだな…… こうやって空を見ていたい。青い空が次第に茜色になっていく様子をずっと眺めるんだ」
「それ、いいね。なんだか、詩人ぽい」
アオイは嬉しそうに、俺に顔を向ける。
「そんな終わり方も、ありだよね」
そう、俺は今、最も自由な時間にいる。
もう、『しなければならないこと』なんて何も無い。
未来があるから、悩みや怒り、悲しみなんてものが存在する。
そんなもの、もう何も気にしなくて良いのだ。
俺たちはベランダに寝ころんで、空を見上げる。
「気持ちいいねー」
「だな」
俺は腕を伸ばし、人差し指でアオイの頬をそっと撫でる。
アオイは、薄目を開けて心地良さそうに、微笑んだ。
今日の夜、19時にこのセカイは終わる。
昨日の朝、このセカイの人類全てが同時に自覚した。
それはまるで、渡り鳥が旅立ちの時間を自然と知るように。
ごく、当たり前に。
このセカイは全て、0と1で出来ている。
それが、19時きっかりに全て0になるのだ。
たった、それだけのこと。
「ねえ」
「なんだ」
アオイはくすりと笑うと、なんでもないよ、といって小さく舌を出した。
fin.
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