数日前

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 ダグは自分で私立探偵事務所を経営している。仕事の大半は素行調査で、自分のペースでスケジュールが立てられない。 だが、今夜は特に重要なイベントなので、前々から事務員のベティーにも何も予約を入れないようにと強く言ってあった。 なのに…、さっき、今まさしく事務所を出ようとした時に、妻の浮気調査を依頼していた男がやってきて、話しこんでなかなか帰ってくれなかったのだ。 「依頼していた仕事をキャンセルしたい」 という内容だったのだが、その理由を延々語られた。要は、勘違いだったということだ。 ダグはベティーに引き継ぐと、先に事務所を出てきてしまった。 ダグが事務所を出てくる時のベティーの顔を思い出した。とても恨めしそうな表情をしていた。いや、ベティーは基本無表情なのだが、この数年の付き合いで何となくわかる。彼女も早く帰りたかったのだろう。 客の男は、あの調子ならまだしゃべっているかもしれない。勘違いだったとわかっても、妻に対しての不満が何かしらあるのだろう。もしかしたらこの機会に離婚を考えていたのかもしれない。  もう秋だというのに、汗が胸を伝う。 ふと、走りながら、今日の服装もミアの気に障るかもしれないと思った。 ダグは長身で、どちらかと言えば、まぁ男前の部類には入る。いつもダークブラウンの髪を短くカットしていて、清潔感もあった。だが、残念なことに恰好にあまり構わない。 今日はグレーのテーラードジャケットにグレーのパンツを履いていたが、以前この服を着ていた時に、ミアに 「ジャケットとパンツの生地が違うのはおかしい」 と、言われたのを思い出した。 同じ色なんだし、生地の違いなんかどうでもいいと思っていたのだが、女性は見るところが違う。 しかも、ネクタイは近所のスーパーで10ドルで買ったものだ。 まずい…。 だが今スーツを買いに行くとなると大幅に遅刻する。いや、この服装で登場するのとどっちがミアの気に障るのだろう…。  と、考えながらもうホテルの目の前に来てしまった。 その時、、、男の怒声が隣のファッションビル前の広場から響いてきた。 「男に色目を使って金にしている人間が、一体俺の何に文句があるって言うんだ!」
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