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見ると、高級そうなスーツに身を包んだガタイのいい30歳くらいの男が、超高級そうなスーツに身を包んだ青年を引きずるように歩いていた。
「離してよ!」
青年は力いっぱい男に抗おうと暴れていたが、華奢なその体ではとうていかなわない。
青年は…、もしかしたら未成年にも見える。
通りすがりの人たちはみんな一様にその光景を見ているだけで、誰も二人に近づこうとはしなかった。
「来い!」
「いや!離して!」
男は青年を、路上に停めてある車へ連れ込もうとしているらしい。
「何が気にいらない!」
男は強引に青年を車まで連れていくと、暴れるその体をボンネットに押し付けた。
「おとなしくしろ!話にならない!」
「俺には話なんかない!」
「とにかく乗れ!」
「いやだって言ってるでしょ!」
ダグは、とりあえず今はミアのことは忘れて、ゆっくりと二人に近づいて行った。
男は青年の体を、ほぼ持ち上げる勢いで強引にドアのところまで運びだした。
「イヤ!やめて!離して!」
「イヤがってるじゃないか」
ダグは静かに男に言った。
同時に二人はダグを振り返った。
「離してやれよ」
今は余計な喧嘩をしたくない。ここは冷静に対処したいところだ。
「お前には関係ない」
男は眉間にしわを寄せて険しい視線でダグを見た。
側で見ると、どうやら一般的なサラリーマンではないオーラを感じた。ダグはもともと警察にいたので、こんな人間を何人も見てきた。
いわゆる裏の世界の人間だ。
だが、今のダグにはそこはどうでも良かった。とにかく早く対処して早くミアに会いに行きたい。
「離してやれ」
もう一度言った。
だが、こんな男が通りすがりの人間の言葉を聞くはずも無いことはダグも承知していた。
どうしたものか…。
青年は、男の腕の中で自由を奪われたまま、ダグを大きな瞳でじっと見つめていた。
とても綺麗な顔立ちだ。肌は透き通るように白く、長い金髪を綺麗に後ろに流していた。長いまつ毛に縁どられた瞳は海の色だ。
男の言葉から察するに、このお金を持っていそうな青年が高級男娼だとしてもおかしくは無い。
「来い」
男はダグに構わず、ドアを開けて青年を強引に押し込もうとした。
「痛いよ!離して!いやだ!」
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