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ダグは、仕方なく男の片腕をねじあげた。
男はうめき声をあげると、驚いてダグを振り返った。
ダグは離さなかった。
男が痛みのあまり力を緩めた瞬間、青年は腕をすり抜けて一目散に横断歩道を走って行った。
「あ!」
男はうなりながらも、ダグを無視するかのようにすぐさま後を追いかけた。
「待て!アイラ!」
車のドアすら開けっ放しで、どうやらかなり必死だ。
ダグは、そのまま青年がビルの隙間の狭い路地に逃げ去ってしまうのを確認すると、又ミアの待つホテルのロビーへと急いだ。
ミアはやはり怒っていた。
ホテルのロビーの豪勢なソファに、沈み込むように小さなミアが座っていた。座っているというより、クッションに埋もれているといった方がいいかもしれない。
ミアは、ホテルの玄関から早足に近づいて来るダグを凄い形相で睨み付けた。
「ごめん」
ダグは急いで駆け寄ると、そこに立ちつくした。まるで叱られると分かっている子供のようだ。
ミアは、金糸の刺繍が施された紺色のベルベットのワンピースを着ていた。とても綺麗だ。肩は大きく開き、茶褐色の真っすぐな髪が首筋を流れるように揺れていた。キリッとした眉が怒った表情を美しく仕立て、形のいい唇が可愛らしくヘの字に曲がっている。
「ホントに御免」
「仕事だって言うんでしょ」
「そうなんだ」
「いい加減にしてよね」
明らかにムッとしていた。
「ミア、本当に御免」
ダグはミアの隣に、体ごと全部彼女の方を向けて座った。
「何時の予約だった?」
責める口調だ。
「7時」
「30分遅刻よね。連絡一つできないわけ?」
「御免、愛してるよ、ミア」
ダグは思い切って憮然としたミアのスベスベした頬に軽くキスをした。
暫くミアはダグを上目遣いでにらんでいたが
「さっさと行きましょう」
と、言って席を立った。
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