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「アイラ、そこでダグが寝るから…」
「俺はいいよ、床で。全然かまわない」
ダグがそう言うと、
「困ったな…」
と、言いながらケントはシーツを奥の部屋から持ってきた。
「ごめん、うちは狭くて…」
「いや、」
ケントはアイラにシーツをかけ、ソファーの脇に座ってジッとアイラの寝顔を見つめた。
「びっくりしただろ?」
「え?」
「俺んち…」
「いや…」
「アイラが相手にしてる男たちはもっといい暮らしをしてる」
「うん…」
ケントはアイラの頬にかかった髪を優しくかきあげた。
「奥さんと別居って、嘘なんだ」
ダグはどう反応していいのかわからずに戸惑った。
「そうなんだ…」
「アイラが…イヤがるから…、あ、アイラに言うなよ」
「わかってる」
「ホントは…もう離婚してるんだ」
どうして恋人が離婚しているのをイヤがるのか不思議でしょうがない。
「アイラは真剣に追いかけられると逃げるんだ」
「何でイヤがるんだ」
「本気になりたくないんだ。前に酔っぱらって言ってた。面倒くさいから、彼女持ちか結婚してる男としか付き合わないって…。アイラの為に離婚した男に、速攻サヨナラしたって話をしてた…」
ヒドイ話だ。
「でも、一緒になろうって話をしてるんじゃなかったのか?」
「あぁ、あれは…」
ケントはアイラの顔をじっと見つめたまま続けた。
「俺が奥さん持ちだから、アイラが話を合わせてくれてるんだ。離婚したって知ったら、その瞬間に捨てられるよ。だから、俺は離婚したことは一生アイラに言わないつもりなんだ」
ケントはアイラの唇に優しくキスをすると、立ち上がった。
「俺、明日朝から出かけなきゃならないから、もう寝るよ。おやすみ」
「ああ」
そして寝室に入って行った。
ダグはアイラの寝顔を見た。
天使のような顔だが、悪魔に違いない。アイラは、ダグの想像の範囲を超えた最悪なクソガキだ。
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