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カランカランと軽快なドアの開閉音がして美香が顔をだした。なにやら入るのに手間どっている理由はすぐ分かった。ベビーカーを押している。すぐ近くまで来た美香に挨拶をして覗きこむと可愛い寝顔があった。
「一歳になるけど、子育て大変だよー」
美香の口から実感のある言葉が飛び出した。子育ての先輩としての自負を滲ませていた。
「分かってるって、赤ちゃん、可愛いー。名前は百合ちゃんだっけ?」
美香は頷くとアイスコーヒーを頼んだ。
「寝てる時が一番幸せなんだから。起きてる時はずっとかまってあげなきゃならないから自分の時間なんかないよ、覚悟しときなよ」
美香が額の汗を拭った。
「真由美、里帰り出産かー。旦那さんは大丈夫なの?」
「うん。賛成してくれたよ。色々不安が多いだろうから両親がいる地元なほうがいいだろうって」
言いながら自問自答する。不安なのは産むことだけではない。故郷を離れた都会で二人で小さな命を育てられるかという事なのだ。その答えを出さなければならない。
「ふーん。物分かりのいい旦那さんだね。出産に立ち会いたい人もいるのにの。もしかして浮気してたりして」
美香が好奇心の塊の顔を見せた。
「まさかー。あの真一だよ。モテないし。ありえないから」
口から出た軽い受け答えとは裏腹に心拍数が上がるのを感じた。
LINEの写真で見た赤いマグカップー。やはりそうなのだろうか。
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