第1章 帰郷

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岡山に向かう新幹線の中で真由美はずっと外の景色を眺めていた。故郷が近くなるにつれ、様々な思いが込み上げてくる。高校までを地元で過ごした。 大学進学を機に都会に出て一人暮らしを始めた。田舎暮らしは楽しかったが都会への憧れが強かった。知的なOLを気取って新宿の高層ビル群の街並みを歩けばひどく自分が誇らしく思えた。 結婚は地元ではしない。そうはっきり決めたのはいつだっただろうか。いや、決めたわけではなかったかもしれない。 真一と出会いそう決めたのだと思った。 真一 は埼玉に実家があり都内に通勤していた。必然的に関東近辺でこれからも暮らすことになる。自然な流れだった。 結婚して約1年が経ち、二人の待望の小さな命を授かった。お腹が大きくなるにつれて不安が大きくなった。見知らぬ地でこの子を無事出産し、育てていけるだろうか。 実家の近くで結婚し、岡山で幸せそうに暮らしてている旧友を羨ましく思った。 本当に今の選択で良かったのか。それを確かめたい気持ちもあった。 すこし早い里帰り出産。真一は快く送り出してくれた。出産予定日まであと一ヶ月。 地元に帰り、ゆっくりしよう。左手でお腹をさする。今は寝ているみたいだ。まだ見ぬ自分の分身が愛おしい。
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