第1章 帰郷

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「男の子ですか?女の子ですか?」 急に話しかけてきたのは隣に座っていた長身の男性だった。にこやかに頬をゆるましている。 「女の子です」 咄嗟にそれだけ答えるとまた、窓の外を眺めた。 気恥ずかしさ。大きなお腹を抱えてれば妊婦なのはすぐばれてしまう。初めての妊娠という未経験の出来事にアタフタする毎日を過ごしているさなかに同じ女性通しならまだしも、真一以外の男性と赤ちゃんトークをする余裕はなかった。それにもしかしてこの男性も同じ岡山で降りるかもしれない。 だとしたら地元の人間かもしれない。 そっとしておいてほしかった。 「楽しみですね」 「ありがとうございございます」 愛想笑いを作る。顔を見るのは恥ずかしかったので手元に視線を移す。男性の左手の薬指にはシルバーのリングが光っていた。既婚者が一人で新幹線でどこまでいくのだろうか。ラフな服装から仕事には見えない。バックはわりと大きめ。数日分の荷物は入っているように思えた。
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