第1章

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おはよう。 透明人間の朝は早い。室内飼いの愛犬に声をかけて布団から出る。彼の名は戸梅伊田朗。 彼はいつもそうしてから布団を出るようにしている。 なぜなら寝ぼけた愛犬に噛まれたことがあったから。 やはり犬としても姿が見えない飼い主など内心おっかないのだろうか。少し淋しさを覚えながら着替えと化粧を済ませる。   またこの化粧と衣類洗濯代もバカにならないから困る。そりゃまぁ全身ファンデーション塗るために朝から風呂にファンデーション湯作って浸かってるんだ、バカにならないというか、バカみたいである。 ざばり。ぼとぼと。 特注のファンデーションの塊が浴室の床に落ちるのも構わず、湿った身体のまま服を着る。まぁこれだから夜には服が全身に張り付きすぐにダメになってしまうのだがそれもまた仕方ない。だって拭いたら透明人間になってしまうもの。 ・・・始めは良かったんだよな。 透明人間になった最初の頃は良かった。 すげー楽しかった。 犯罪ギリギリいや、完全にアウトなことをたくさんしてきた。実際今も月1で県外に出張し、闇金裏金ぱくって生計立てているのだが、最初のころはもうそんなもんじゃなかった。悪いことばーっかしてた。 ・・・だけど、飽きちゃった。 はぁぁぁぁ、めんどくせえ。 透明人間めんどくせえ。 かちっ。 ぼぉぉ。 ガスコンロに火を入れ、朝食と娘のお弁当を作り出す。 じゅーじゅー、じゅーじゅー。  チーン。 カチャカチャ。 ほい、弁当完成。朝食完成。 あとはフライパンとお玉持って。 てくてくてく。 ワンワンワンワン!! うわっ!?びっくりした! 出会い頭に二階から降りてきた愛犬と鉢合わせ、吠えつかれた。まぁこの子も驚いて吠えてしまったようで罰が悪そうに今はまとわりついてきている。 よしよし、諸々終わったら散歩行こうなー。 わしゃわしゃ。 くひゃん! ぐえ、俺の顔にくしゃみ飛ばすな。ファンデーション臭いのは仕方ないだろ。
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