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「最悪だ……この世の終わりだ……」
道のど真ん中で、頭をかかえて地面に膝をついた私は、まるでコミックの登場人物のようだった。
追い詰められた人間というものは、往々にして、駆け出しの役者かコミックキャラクターのように振る舞うことがある。
自らの危機を、パターン化した過剰な動きや、大味で使い古された台詞で表現しようとしてしまい、かえって喜劇的に映ってしまうアレだ。
直面する問題の解決に脳のリソースが使われるため、感情伝達がパターン化するのか? 会話のキャッチボールひとつ取っても膨大な計算の上に成り立つのだし。
いや、待てよ――
「パターン化したアクションや台詞は、時の流れに風化せず耐えたものなのであり、すなわちそれだけ効果が高くシンプルで力強い言葉だからこそ、危機に際しても口をついて出てくる……なんてな。ははっ」
なんて栓のない。バカバカしい思いつきだろう。
「こんなのは現実逃避だ」
――今はそれどころでは無いのだ。
私は立ち上がった。
まだ朝のはやい時間の街並を、うすぼんやりと弱い朝日が照らす。
ひび割れた道路の路肩や、駅向こうのかつての共産党団地の庇に雪が降り積もっていた。
雪、雪、雪。
あたり一面雪だらけ。
もちろん先ほどまで地面に膝をついていた私のスラックスも雪だらけ。
好き放題に降り積もった雪景色を、ある人は、我が祖国の偉大なる発明品に例えてこう表現した。
”しくじったテトリスのようだ”
言い得て妙である。
さてそんな雪景色のなかを、私はつい数分前まで右往左往していた。
朝早く、まだ道行く人のほとんどいない通りを行ったり来たり。
とはいえ、別に道に迷ったわけではない。
探し物をしていたのだ。
見つかりはしなかったが。
いったいどこで無くした?
どこかに置き忘れた?
いや、小さい機械だ。落としたのかも……
「紛失したとなれば、タダではすまないな」
重苦しい事実に思わず自分で自分のくちびるを舐めてみた。
人肌の暖かさを感じるのは一瞬だけ。
すぐに熱は奪われ、かえって凍てつくようだ。
「やはり、解雇だろうか……」
くちびる同様に凍てついた現実と向き合わねばならない。
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