ブレイン・リーダー

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来た道を戻り、戻った道を進み、目を皿にして隅々まで探したが結局”ブレインリーダー”を発見することはできなかった。 いつの間にか流れ流れて駅前に辿り着き、 最悪の状況のまま今に至る――というわけだ。 なにせ国家機密プロジェクトだ。紛失したからといって、おいそれと地元警察に連絡するわけにもいかない。 とはいえ、上司や陸軍の担当者である技術将校へ連絡するかといえば、それも後回し。一旦、保留だ。 優先順位で言えば、”上よりも下”なのだ。 何よりも部下と連絡を取り対応を協議すべきだ。 足場を蔑ろにしたまま、上役に弁明をしている最中に梯子を外されたのではたまらない。 というわけで、私はチームの副主任でもあるエレミア君に電話を掛けた。 しかし、残念なことに……というより、 ”夜型の研究者が今時分に起きているわけがない”という予想通り、 エレミア君が電話口に立つことはなく、留守番電話にメッセージを残すだけに終わった。 ――火急の用あり、連絡くれたし エレミア君は、駅の西口から15分の社宅に独りで住んでいる。 「いっそ、直接たずねたほうが早いかもしれないな……」 中年のオッサンが部下を起こしに家まで出向くというのは、考えるだに気持ち悪いことであるが、背に腹は替えられない。 エレミア君の住む社宅へ向かうため、駅のコンコースを通り西口へ。 そのまま、いざ社宅へ……とは行かず、私は近くにあった売店のドアを開けた。 「どうせなら行きがけにパンを」というのも理由の一つではある。 昨日から何も食べていないのだ。 しかし、どちらかと言えば、無断で家を訪ねて部下に時間外労働を強いることに対する後ろめたさによるものだった。 タイムロスになるが、やはり手土産の一つでも買っていくのがマナーだろう。 まだ開店して間もないのだろうか? 広くはない店内だが、室温はどうやら外と大差ないように感じた。 ヒーターのトロトロした温風にとろけさせられた冬場特有の売店とは違い、棚に並んだ商品は、寒さによってそれぞれがはっきりと輪郭を保っている。 店内に私以外の客はなく、他に若い女の店員がひとりいるだけだ。 その店員もレジ台に座ってはいるが、背を向けて読書か何かに夢中のようだ。
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