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普段、西口を使わない私は、初めて入った売店のレイアウトに少しだけ迷いつつも、なるべく手早くパンとミルクを手に取った。
さらに酒類棚からいちばん高いウォトカを一本抜き出してレジに置く。
「ウォトカは贈答なので包み紙をください」と女の店員に伝えたが、いまだ背を向けたまま、こちらには気がついていない。
「あの……」
仕方なく、レジ台を二~三度ノックしてみると、そこでようやく客に気がついたのか、イヤホンを外して、こちらに向き直った。
若く、そして綺麗な女性だった。
その女店員は、私を見てほんの一瞬だけ驚いた顔を見せたが、すぐに持ち直し、
「パンとミルクが百五十ルーブリ、ウォトカが二千ルーブリよ」と取り繕うように笑顔で応えた。
「贈答用なので、包み紙をもらえますか?」
「包み紙は……ちょうど切らしているわ。紙袋でもいいかしら? 厚手だし、そんなに安っぽくは見えないはずよ」
私が頷くと、彼女はレジ台の真後ろの壁に束で吊された色とりどりの紙袋のなかから黒地のものを一枚抜き取る。
そして、その美しくしなやかな指先でウォトカを詰めながら、
「悪いわね、昨日から調子が悪いの」と世間話のように言うのだ。
「えっ? なんです?」
「ヒーターよ」
彼女はあごでガスヒーターユニットの設置された壁を指し示した。
「故障かしらね、なにせ型が古いから。そういうことも、あるのかしらね。寒いでしょう?」
ああ、なるほど。
「気にしないでください。これから少し外を歩くので、正直なところ、暖房に慣れる方が辛い」
「そう? なら良かったわ。はい、これ」
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