1人が本棚に入れています
本棚に追加
エレミア君からの折り返しがあったのは、店を出て大通りを五分ほど進んだところだった。
『……あー、おはようございます。どうしたんです、主任。こんな朝早くに』
「実はね、大変なことが起こったんだ」
『大変なことぉ? 本当ですかぁ? どうせまたしょうもない事じゃないんですかぁ?』
寝起きだから不機嫌なのでは無く、彼はだいたいいつもこの調子だ。
私はエレミア君に事情を説明した。
『あぁ……。それは、まあ、なんというか……』
「信じてないのかい?」
『……呆れているんですよ。わざわざ屋外に持ち出して、それで無くしたんですか。だいたい実地試験なんて聞いてませんよ』
「昨日、ふと思い立ってね」
『研究室の外なんかでなんの試験……まさか』
「うん、ちょっとね」
『主任! その先は言わなくて結構――』
「通行人でテストをしてみようと思って」
『ああ……やっぱり』と盛大なため息。
「そんなにダメだったかな?」
『あのねえ、主任。それ人体実験じゃないですか』
「人体実験だなんて大げさだな……本当に?」
私は思わず立ち止まった。
『民間人相手に、研究中の”軍用兵器”を無許可で照射したんですよ。違法な人体実験そのものです』
言われてみれば、確かにそうだ……。
『しかも我々の身分は現在、軍属と同じ扱いになっていますからね。軍法会議で裁かれるってわけです。最高刑は死刑、最低でも終身刑』
「そんな……あんまりだ……」
死刑という予想もしなかった言葉の直撃を受け、私はうろたえた。
もちろん、紛失したことについて何らかの処罰はあるだろうと覚悟していた。
謹慎、解雇、損害賠償、ひょっとしたら数年の懲役。
しかしまさか死刑とは。
死刑はないだろう。軽くても終身刑だって?
それはあまりにも酷い。人体にはなんの影響も無いのだ。
電話越しに私の狼狽を感じ取ったのか、
『まぁ、だからこの件は隠蔽すべきだと思います。紛失したことが露見しなければ、紐繋ぎで人体実験……いえ、実地試験の事実も無かったことになりますからね。黙っていればわからない』
「そ、そうか。うん、いや待て……だけど。ブレインリーダーの紛失は……実機が無いんだから、ごまかしようがないじゃないか?」
最初のコメントを投稿しよう!