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『確かに、メインスイッチを操作することはできません。でも、動作チェックはマスターキーがあれば行うことができます。それはGPSにも及ぶはずです』
「なるほど、その手があったか!」
ブレインリーダーには、各々のパーツが正常に動いているかをチェックするための、正確に言えば『テスト再起動モード』がある。
もちろんGPSが動いているかもチェックするし、その結果はサーバーのログにばっちりと残るわけだ。
そして、そのテスト再起動モードは、マスターキーの管轄権が及ぶところであった。
「すごいな、君は」
『それほどでもないです。サーバーにはうちのパソコンからアクセスしてみます』
ん? 何を言っているんだこいつは?
手放しの賛辞のあとで、不穏な発言があったように思えるのだが。
「いや、そんなこと不可能だろう?」
電話口から、やべっという声が聞こえてきた。
『実は……バックドアを仕込んでいて……家でも仕事ができるように……』
おい、正気か。
「……ま、まあ、今回はそれどころじゃないので、目をつむろう。それじゃあ私もそっちへ行くよ」
『いえ、主任は駅に戻って下さい』
「なぜ?」
『マシンが盗まれていた場合、犯人は逃亡を企てているか、すでに逃亡をしているはずです。となれば主任は駅で待機しておいたほうが合理的だ。人手を集めておいて下さい』
「それもそうだな」
私は踵を返し、来た道を戻り始めた。
『私は主任が駅に戻る間に、パソコンを立ち上げてサーバーに繋ぎますよ……うっ、さっむぅ!』
布団をするような音がした。
今まで、毛布にでもくるまっていたのだろうか。
『ったく、真冬にガスの供給停止は困りますよね』
「え?」
『ああ、主任はここ何週間か研究室に籠もりきりですもんね。昨日からガス管の交換のために市全域でガスの供給が止まってるんです』
「そりゃあ、大変だ」
『研究室はエアコンがあるからいいですよね。社宅なんて、エアコンはないし灯油は持ち込み厳禁。その上ガスもダメとなると……』
BuPi!!
パソコンのビープ音がなり、かすかにカリカリとハードディスクの走り始めた音がする。
『いっそ、パソコンが暖房代わりになりそうです』
「ハハハ。じつはウォトカを買ってあるんだ。終わったら一緒に飲もう」
『いいですねえ』
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