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踵を返して雨の住宅街を抜けるため歩き出すと、疲れた顔の浅海さんがそっと曲がり角から姿を現した。
また迎えに来ているんじゃないかとは思ったけど、彼がここまでやってきたのは初めてだった。
「いいかげん、折れろよなあ。もうフリでもなんでもいいから、遺族として墓参りに来てくれりゃ丸く収まるのに」
……100パーセント俺の都合で考えてくれるこの人の情の篤さには、感服する。
俺が浅海さんをとても好きな理由は、ここにあった。
代わりにするつもりなど、全くない。
だけどこの人は斉木によく似ている。
この人のいい意味での軽薄さや明るさに、俺はこの7年、どれほど救われてきただろうか。
「さて、章子ちゃんの花供えて帰ろうぜ。また来月も、付き合ってやるから」
なにも気付いていないふりの浅海さんはそう言って車の鍵をチャリ……と鳴らした。
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