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「うわっ!」
ルナさんの驚いたような声がして目を開けると、いつの間にかトキさんが彼の腕を掴んでいた。
「お客様、ここは娼楼ではありませんので。
こういったことは他所でお願いいたします」
トキさんはにっこりとほほ笑んで(ずっと一緒にいればそれが偽りの笑みだと分かる)私から彼を遠ざけた。
ほっとして息を吐くとルナさんは唇を尖らせる。
「はあ、君はこの子のなんなんだい?
これじゃあこの子が成長しないだろう」
「どういった意味で?貴方の成長は私どもとは違うようですが」
「ご想像にお任せするよ」
「それではこいつは下げますね」
なみ、と名前を呼ばれ腰を浮かす。
と、名前を呼ばれたことに気が付いて心が温かくなった。
いつ以来だろう。おいとかお前などが多く、名前で呼ばれることは数えるほどしかなかった。
小躍りしてしまいそうな気持ちを抑え、一刻も早く立ち去ろうと失礼しますと頭を下げると。
「なみちゃん、また来るから」
ルナさんはにっこりと美しい笑みを浮かべて私の手を取り。
「約束のしるし、ね」
私の手の甲に口づけた。
それはとても様になっていた。
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