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トキさんはその長い脚を組んでソファに座っていた。
「トキさん」
「なんだ、お前か」
切れ長の眼がちらりとこちらを見る。
風が吹いて、彼のさらさらとした黒髪が揺れた。
「これ、女将からです」
「じゃあ安堂の大福だな」
こちらに来るように言われ従う。
彼の隣に座り風呂敷を渡すと、まるで魔法の様に一瞬で包みを開けた。
「どれがいい」
「えっ、全部同じじゃないんですか?」
「味は同じだ」
「じゃあどれでもいいじゃないですか」
「中にお神籤が入っているんだ。うっかりして飲み込まんようにな」
「そんなへまは致しませんっ」
六つ並んでいるうちの一番右上の大福を手に取った。
トキさんはその隣の大福を取る。
ぱくりと一口頬張ると、何とも言えない幸福感で満たされた。
「お、中吉だ」
彼はもうお神籤をとりだしたよう。
慌てて自分も取り出して見てみる。
「私は……」
大きく赤で書かれていたのは。
「末吉か」
「なんか、微妙ですね。もっとこう、大凶!とか大吉!とか、はっきりしてほしいです」
「人生はそういうもんだ」
「うーん」
私は残りの大福を胃に収めて、手を付けていない四つのそれを見つめた。
「食いたいのか」
「ほんの少し」
「じゃあ少し付き合え。ならくわせてやる」
「行きます!」
食べていいとお許しを貰い、また一つ手を付ける。
大福を食べられ、好きな人と一緒に出掛けられるなんて一石二鳥だ。
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