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外に出ると既に太陽は高く登っていた。
買い物に行くと母に告げ、いつものバックを持ってぶらぶらと出掛けに行くのだ。
いわゆる暇つぶし。
特にする事はない。
高い日差しが頭に降りかかる。
真っ赤な太陽。私に見えるのはただの白い丸。
眩しくて目を細めた。
また、ふと妙な感覚に捕われた。
外はこんなに暑かったっけ。
地面はこんなに硬かったっけ。
すれ違う人は皆、こんな服を着ていたっけ。
思い出そうとすると、煙のようにすっと消えていく。
それでも手繰り寄せようと思い浮かべてみるが、さっぱり何も出てこない。
.....。
いや、出てこないのは当たり前だ。
これが正しいから。
正しいも何も、私は今までこの景色しか見たことがないのだから。
いつの間にか見知らぬ道まで来てしまったようだ。太陽も傾き始めている。帰り道はわかる。来た道を真っ直ぐ戻ればいいだけ。
回れ右をして帰ろうとすると、突然風が吹いて私の髪を揺らした。
カランと乾いた音が聞こえた。
そちらを見ると、気が付かなかったが神社らしき建物が見えた。こんな所に神社なんてあったんだ。
ちょうど太陽の方角にあるから逆光で見えにくい。
行きたい。
そんな衝動が湧いて出た。
理由はない。ただ、行きたいと、それだけ。
カラスが鳴いている。
その切ない声を聞くと、ああ、帰らなくちゃと体が叫ぶ。
私は踵を返して道を引き返した。
後ろ髪引かれながら。
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